2009年8月31日月曜日

Wモデル

まずはWモデルの原典西先生の記事を読もう。

・Wモデル
Vモデルの改良版開発モデル。
Vモデルの作り込みプロセス(要求定義、要求仕様、アーキテクチャ設計、詳細設計)内で、各プロセスに対応する試験を設計・レビューすることで、素早いフィードバックを得ながら開発を行う。
※VモデルのV字を上方にづらして重ねた形のため、Wモデルと呼んでいる。
要は、設計時に試験設計をしましょうねってこと。 「設計する」ということは期待するINPUTとOUTPUTを検討している訳だから、頭の中では既にやっていること。
それを明示的にプロセスに組み込むだけ。 そう。本当にそれだけ。
成果物の作るタイミングを前倒しにするだけだから、成果物が増えるわけでもない。
どうせ作るものを先に作るだけで、無駄(設計の誤りを試験で見つけるまでのタイムラグとそれを修正するためのコスト)が減る。単純だけど見事な仕組み。


・効果
1.担当者が試験項目・データを設計時に検討するため、検討結果を設計にリアルタイムでフィードバックさせることができ、設計品質が向上する
2.試験資料を設計時にレビューすることが出来るため、レビュワーは具体的なシナリオを元にレビューすることができ、レビュー品質が向上する(=設計品質が向上する)
3.(設計者と製造者が別人である場合)製造担当者に設計書と試験成果物を最初からペアで渡すため、製造者が製造対象をよりよく理解でき、製造品質、製造効率が向上する。

何より、早い段階から具体的なケース・シナリオで話しができるところがGOOD。
設計レビューなんて設計担当者のストーリーで語られてしまうと、間抜けなボクは「へぇ〜。よくできてるねぇ」なんて素通りしてレビューOKにしてしまうんで。

失うものが少ない(後でやるはずのことを先にやるだけ)ので是非採用しよう。

2009年8月26日水曜日

「情報システムのパフォーマンスベース契約に関する調査研究」報告書

経済産業省の「情報システムのパフォーマンスベース契約に関する調査研究」について

1.要約
1.1.背景
現在、情報システム開発で広く行われている人月ベースの価格設定(売価=許容原価+予定利益)では、投資目的と価格に相関関係がないため、
(問題1)発注者にとっては、価格に納得感がなく、投資の妥当性を評価できない
(問題2)受注者にとっては、付加価値向上への動機付けが働かない
という問題がある。
これらの問題点を緩和する1つの方策として、PBC(Performance Based Contracting)を挙げている

1.2.定義
サービスやシステムの対価の一部、または全部について、サービスやシステムによって創出されるパフォーマンスに基づいた価格設定を行うこと

1.3.PBC導入による効果
本質的な違いは、価格設定方法(固定金額→変動金額)の変更により、ベンダーの関心事(モノ→モノが生み出す価値)が変わること
これにより、
・発注者は投資目的に近い見方で情報システムを見られるようになる
→価格への納得感の向上、投資妥当性評価可能性の向上
・受注者はモノ(情報システム)の外側に対して積極的に関与することになる
→付加価値向上への動機付け
また、PBCを適切に導入しようとする過程で、
・情報システムに関わる取引慣行の変革
・情報システム価値の可視化
・ユーザによる情報システムの目的や期待する効果の明確化
が実現されることを期待している

2.感想
発注者と受注者の関係が緊密化・長期化する方向に力が働くこと、ベンダーの垂直統合化(BPOや企画・コンサルティング)への動機付けとなることから、好意的に捉えている。
ただし、本質的なところで2点問題がある。
1.評価単位に無理がある
IT投資は、組織投資、人的資本といった無形資産投資と結びついた場合に(タイムラグを伴って)効果を生む(Erick Brynjolfssonら)という前提に立つと、情報システム単位でビジネス効果(本文中の「アウトカム」)と結びつけることは出来ない。
また、情報システムは単体としてもシステムだが、情報システムを要素として持つ業務システムやビジネスシステムの文脈で初めて成立するものである。
そのため、システムの中から1要素を取り出して(還元主義)評価することはシステムの定義において無意味である。
※ここで言うシステムの定義=システムの構成要素が生み出す効用の和<システムが(全体として)生み出す効用

2.ど真ん中を意図的に避けている
問題1、2を緩和するために、PBCを導入し、発注者・受注者間で目的を共有してWIN-WIN関係を築くことを主張しているが、問題1、問題2ともに、発注者・受注者ともに同一企業内であればそもそも存在しない。
つまり、元々の問題設定から出発すれば、「自社開発(ユーザ主導開発)すべし」という結論になるはず
なのに、それを(意図的に?)避けて、現状の「SIerとユーザ企業」という関係を前提としている。
PBCの可能性を探るよりも、クラウドやRoRを前提としたユーザ主導開発の可能性を探るべきだ。

2009年8月23日日曜日

クラウドコンピューティングと企業情報システム

はじめに

クラウドコンピューティングが企業情報システムに適用されていくことを確信しているが、NFRの問題、既存資産の問題、ガバナンスの問題により、パブリッククラウドへ一斉に移行することは考えられず、(プライベートクラウド中心の)ハイブリッド型になることが予想される。また、企業には固有の存在価値(ビジネス)があるため、デリバリーモデルはSaaSではなくPaaSIaaSが中心となる。

以上を前提に、次世代企業情報システムの「開発」に焦点を当て、まずクラウドコンピューティングによって得られる効果を整理し、次いでそれらが、企業情報システム開発にどのような影響を与えるかを考察する。

クラウドコンピューティングの効果

クラウドコンピューティングによって得られる効果を整理すると「柔軟なスケーラビリティ」「迅速なプロビジョニング」「コンピューティング資源の効率的な活用」「透過的なITインフラ」という4つの効果が挙げられる。

1.柔軟なスケーラビリティ

クラウドでは、論理サーバに対してコンピュータ資源を割り当てることができるため、柔軟なスケーラビリティが得られる。これにより、

・幅広い技術・知識が必要であった性能、信頼性等のNFRを情報システム単位で高度に設計する必要性が薄れ、これまでインテグレーションに弱みがあるために情報システム全体を構築することが出来なかった集団が、情報システム全体を構築することが可能となる。

2.迅速なプロビジョニング

情報システムをサーバイメージとして扱うことから、物理サーバを情報システム単位で個別に用意する必要がなく、情報システムのデプロイ作業のうち、サーバ調達、サーバ構築(ハード)、ラッキング、結線といった物理的な配備作業が不要となり、迅速なプロビジョニングが行えるようになる。これにより、

・情報システムの企画-サービス開始までの時間が短縮される。

3.コンピューティング資源の効率的な活用

クラウドが内包する仮想化技術により、ハード資源の全体最適化が可能となる。これにより、

・物理サーバ台数が減り、ITインフラの維持管理コストが低下する。(=相対的に戦略的IT投資余地が拡大する)

・企業の情報システム部門における維持管理稼働が低下することで、情報システム部門の仕事が開発に向かう(社内のIT技術者の稼働に余裕が生まれる)

4.透過的なITインフラ

ハードウェア(IaaSモデル)やプラットフォーム(PaaSモデル)が透過的に扱えることになる。これにより、

ITインフラを意識せずに情報システム開発が行えるようになり、情報システム開発における技術的側面が縮小し、その分ビジネス課題の解決に専念(ビジネス課題の解決が中心になる)

ITインフラを情報システム単位で構築する必要がなくなるため、情報システム単体での投資金額減少(インフラ部分にかかっていた金額が単位情報システム投資から除かれ、費用計上される)

クラウドの進展によって起こる開発現場の変化

これらの結果を、人、物(情報システム)、金の観点で下表にまとめる。

物(情報システム)

柔軟なスケーラビリティ

NFRを高度に扱える人材がいなくてもシステム開発が可能になる

中・小型の情報システムのNFR充足度向上

迅速なプロビジョニング

情報システム開発-提供期間短縮

資源の効率活用

企業内情報システム部門の(既存システムの)維持管理稼働低下

企業における戦略的IT投資余地増加

透過的なITインフラ

インフラ技術力が低い人・組織でもシステム開発が可能になる

ビジネス課題解決中心のシステム開発

ITインフラの費用化による情報システム開発の単価下落

これらの効果をどこに振り向けるかに

より、企業は大きく以下の2パターンに分かれると考えられる。

A. ITコスト削減を徹底する企業

B. IT活用を積極化する企業

A. ITコスト削減を徹底する企業では

自社にとって必要最低限で良いと考える企業は、クラウド導入によるコスト削減効果を重視して、可能な限りアプリケーションに近いデリバリーモデル(SaaS>PaaSIaaS)を選択する(情報システム開発件数減少)。

また、クラウド導入により浮いた分のIT予算、情報システム部門の人員を削減することが予想される。

B. IT活用を積極化する企業では

ITをビジネスに積極的に活用したいと考える企業は、これまで情報システムの(ビジネス要求への)対応の遅さに不満を持っていた。そのような企業にとっては、クラウドを導入することでIT活用のためのハードルが下がり、IT活用の場が広がる。

そのため、クラウドの導入効果(開発コスト削減、期間短縮、新規投資余地増大)を活かした、迅速性を重視した中小型システム開発

案件への投資を積極化することが予想される。

特定企業のビジネス要求に特化した中小型システム開発には、大きくて複雑な情報システムを作るために構築された分業体制(SIerを頂点とした分業体制)は不向きであり、小さく早く作るための自己完結体制を構築したIT組織が活躍することになるだろう。特に、企業のビジネス・業務への理解が深さから、企業内の情報システム部門がこれらの開発を主導することが期待される。

技術面では、開発プロセスとしてアジャイル開発、言語としてスクリプト言語、フレームワークとしてRoRといったWeb系を中心に発達した技術が企業内に本格的に導入されるだろう。

モデルケース:良品計画

おわりに

クラウドは次世代企業システムに大きなメリットをもたらすが、そこで得られたメリット(資源)の振り向け先は、企業のITに対する考え方により分かれる。

ITのビジネスへの貢献を重視する

企業においては、「作って持つ 買って使う」という従来の流れに反して情報システム開発が増える。

そこでは、迅速性を求められるため、ユーザに近い組織が開発を主導することになり、典型的には情報システム部門による開発が増える。

また、情報システム部門による開発をサポートする(アジャイルな開発技術を持つ)ソフトウェア開発会社も活躍の場を広げるだろう。これらの開発会社は、迅速性を重視される結果、必然的にユーザとの長期的関係を築くようになる。

最後に、クラウド導入後のIT活用積極派企業における情報システム開発を、アプリケーション種別と開発規模を軸にして以下に示す。