2009年8月23日日曜日

クラウドコンピューティングと企業情報システム

はじめに

クラウドコンピューティングが企業情報システムに適用されていくことを確信しているが、NFRの問題、既存資産の問題、ガバナンスの問題により、パブリッククラウドへ一斉に移行することは考えられず、(プライベートクラウド中心の)ハイブリッド型になることが予想される。また、企業には固有の存在価値(ビジネス)があるため、デリバリーモデルはSaaSではなくPaaSIaaSが中心となる。

以上を前提に、次世代企業情報システムの「開発」に焦点を当て、まずクラウドコンピューティングによって得られる効果を整理し、次いでそれらが、企業情報システム開発にどのような影響を与えるかを考察する。

クラウドコンピューティングの効果

クラウドコンピューティングによって得られる効果を整理すると「柔軟なスケーラビリティ」「迅速なプロビジョニング」「コンピューティング資源の効率的な活用」「透過的なITインフラ」という4つの効果が挙げられる。

1.柔軟なスケーラビリティ

クラウドでは、論理サーバに対してコンピュータ資源を割り当てることができるため、柔軟なスケーラビリティが得られる。これにより、

・幅広い技術・知識が必要であった性能、信頼性等のNFRを情報システム単位で高度に設計する必要性が薄れ、これまでインテグレーションに弱みがあるために情報システム全体を構築することが出来なかった集団が、情報システム全体を構築することが可能となる。

2.迅速なプロビジョニング

情報システムをサーバイメージとして扱うことから、物理サーバを情報システム単位で個別に用意する必要がなく、情報システムのデプロイ作業のうち、サーバ調達、サーバ構築(ハード)、ラッキング、結線といった物理的な配備作業が不要となり、迅速なプロビジョニングが行えるようになる。これにより、

・情報システムの企画-サービス開始までの時間が短縮される。

3.コンピューティング資源の効率的な活用

クラウドが内包する仮想化技術により、ハード資源の全体最適化が可能となる。これにより、

・物理サーバ台数が減り、ITインフラの維持管理コストが低下する。(=相対的に戦略的IT投資余地が拡大する)

・企業の情報システム部門における維持管理稼働が低下することで、情報システム部門の仕事が開発に向かう(社内のIT技術者の稼働に余裕が生まれる)

4.透過的なITインフラ

ハードウェア(IaaSモデル)やプラットフォーム(PaaSモデル)が透過的に扱えることになる。これにより、

ITインフラを意識せずに情報システム開発が行えるようになり、情報システム開発における技術的側面が縮小し、その分ビジネス課題の解決に専念(ビジネス課題の解決が中心になる)

ITインフラを情報システム単位で構築する必要がなくなるため、情報システム単体での投資金額減少(インフラ部分にかかっていた金額が単位情報システム投資から除かれ、費用計上される)

クラウドの進展によって起こる開発現場の変化

これらの結果を、人、物(情報システム)、金の観点で下表にまとめる。

物(情報システム)

柔軟なスケーラビリティ

NFRを高度に扱える人材がいなくてもシステム開発が可能になる

中・小型の情報システムのNFR充足度向上

迅速なプロビジョニング

情報システム開発-提供期間短縮

資源の効率活用

企業内情報システム部門の(既存システムの)維持管理稼働低下

企業における戦略的IT投資余地増加

透過的なITインフラ

インフラ技術力が低い人・組織でもシステム開発が可能になる

ビジネス課題解決中心のシステム開発

ITインフラの費用化による情報システム開発の単価下落

これらの効果をどこに振り向けるかに

より、企業は大きく以下の2パターンに分かれると考えられる。

A. ITコスト削減を徹底する企業

B. IT活用を積極化する企業

A. ITコスト削減を徹底する企業では

自社にとって必要最低限で良いと考える企業は、クラウド導入によるコスト削減効果を重視して、可能な限りアプリケーションに近いデリバリーモデル(SaaS>PaaSIaaS)を選択する(情報システム開発件数減少)。

また、クラウド導入により浮いた分のIT予算、情報システム部門の人員を削減することが予想される。

B. IT活用を積極化する企業では

ITをビジネスに積極的に活用したいと考える企業は、これまで情報システムの(ビジネス要求への)対応の遅さに不満を持っていた。そのような企業にとっては、クラウドを導入することでIT活用のためのハードルが下がり、IT活用の場が広がる。

そのため、クラウドの導入効果(開発コスト削減、期間短縮、新規投資余地増大)を活かした、迅速性を重視した中小型システム開発

案件への投資を積極化することが予想される。

特定企業のビジネス要求に特化した中小型システム開発には、大きくて複雑な情報システムを作るために構築された分業体制(SIerを頂点とした分業体制)は不向きであり、小さく早く作るための自己完結体制を構築したIT組織が活躍することになるだろう。特に、企業のビジネス・業務への理解が深さから、企業内の情報システム部門がこれらの開発を主導することが期待される。

技術面では、開発プロセスとしてアジャイル開発、言語としてスクリプト言語、フレームワークとしてRoRといったWeb系を中心に発達した技術が企業内に本格的に導入されるだろう。

モデルケース:良品計画

おわりに

クラウドは次世代企業システムに大きなメリットをもたらすが、そこで得られたメリット(資源)の振り向け先は、企業のITに対する考え方により分かれる。

ITのビジネスへの貢献を重視する

企業においては、「作って持つ 買って使う」という従来の流れに反して情報システム開発が増える。

そこでは、迅速性を求められるため、ユーザに近い組織が開発を主導することになり、典型的には情報システム部門による開発が増える。

また、情報システム部門による開発をサポートする(アジャイルな開発技術を持つ)ソフトウェア開発会社も活躍の場を広げるだろう。これらの開発会社は、迅速性を重視される結果、必然的にユーザとの長期的関係を築くようになる。

最後に、クラウド導入後のIT活用積極派企業における情報システム開発を、アプリケーション種別と開発規模を軸にして以下に示す。

0 件のコメント: