2009年8月26日水曜日

「情報システムのパフォーマンスベース契約に関する調査研究」報告書

経済産業省の「情報システムのパフォーマンスベース契約に関する調査研究」について

1.要約
1.1.背景
現在、情報システム開発で広く行われている人月ベースの価格設定(売価=許容原価+予定利益)では、投資目的と価格に相関関係がないため、
(問題1)発注者にとっては、価格に納得感がなく、投資の妥当性を評価できない
(問題2)受注者にとっては、付加価値向上への動機付けが働かない
という問題がある。
これらの問題点を緩和する1つの方策として、PBC(Performance Based Contracting)を挙げている

1.2.定義
サービスやシステムの対価の一部、または全部について、サービスやシステムによって創出されるパフォーマンスに基づいた価格設定を行うこと

1.3.PBC導入による効果
本質的な違いは、価格設定方法(固定金額→変動金額)の変更により、ベンダーの関心事(モノ→モノが生み出す価値)が変わること
これにより、
・発注者は投資目的に近い見方で情報システムを見られるようになる
→価格への納得感の向上、投資妥当性評価可能性の向上
・受注者はモノ(情報システム)の外側に対して積極的に関与することになる
→付加価値向上への動機付け
また、PBCを適切に導入しようとする過程で、
・情報システムに関わる取引慣行の変革
・情報システム価値の可視化
・ユーザによる情報システムの目的や期待する効果の明確化
が実現されることを期待している

2.感想
発注者と受注者の関係が緊密化・長期化する方向に力が働くこと、ベンダーの垂直統合化(BPOや企画・コンサルティング)への動機付けとなることから、好意的に捉えている。
ただし、本質的なところで2点問題がある。
1.評価単位に無理がある
IT投資は、組織投資、人的資本といった無形資産投資と結びついた場合に(タイムラグを伴って)効果を生む(Erick Brynjolfssonら)という前提に立つと、情報システム単位でビジネス効果(本文中の「アウトカム」)と結びつけることは出来ない。
また、情報システムは単体としてもシステムだが、情報システムを要素として持つ業務システムやビジネスシステムの文脈で初めて成立するものである。
そのため、システムの中から1要素を取り出して(還元主義)評価することはシステムの定義において無意味である。
※ここで言うシステムの定義=システムの構成要素が生み出す効用の和<システムが(全体として)生み出す効用

2.ど真ん中を意図的に避けている
問題1、2を緩和するために、PBCを導入し、発注者・受注者間で目的を共有してWIN-WIN関係を築くことを主張しているが、問題1、問題2ともに、発注者・受注者ともに同一企業内であればそもそも存在しない。
つまり、元々の問題設定から出発すれば、「自社開発(ユーザ主導開発)すべし」という結論になるはず
なのに、それを(意図的に?)避けて、現状の「SIerとユーザ企業」という関係を前提としている。
PBCの可能性を探るよりも、クラウドやRoRを前提としたユーザ主導開発の可能性を探るべきだ。

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